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“コンテナネイティブ”の時代が本格到来 ―2018年のクラウドはKubernetesとGoogleに注目

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どうなる? 2018年のGoogle Cloud

「Googleは歴史的にオープンソースコミュニティをあまり大事にしてこなかったのは事実だ。その反省をもとに,これからはアプローチをあらため,エコシステムの構築を目指していきたい」―2015年11月にサンフランシスコで開かれたクラウドカンファレンス「Gigaom Structure 2015」において,Googleのインフラストラクチャ部門でバイスプレジデントを務めるエリック・ブリューワー(Eric Brewer)氏はこう発言していました。ブリューワー氏はKubernetesプロジェクトの立ち上げにも深く関わった人物ですが,Kuberentesの開発は最初からコミュニティドリブンで進めていく方針だったとしています。前述したように,Kubernetes 1.6からGoogle以外の企業もKubernetes開発に加わるようになり,今後はHadoop/SparkやOpenStackのように複数の企業が関わるオープンソースプロジェクトとしての成功が期待されるところです。Linux Foundation傘下のプロジェクトの中にはうまく行かないケースも少なくないのですが,KubernetesがそうならないためにもGoogleのコミュニティ運営手腕が今後は重要な意味をもつことになります。

ところでKubernetesに限らず,コミュニティやエコシステムを重視するというGoogleのアプローチは,Google Cloudの全体戦略を考える上で非常に注目したい点です。冒頭でも触れましたが,Googleは現在,パートナー企業との関係を強化しており,Google Cloudのダイアン・グリーン(Diane Greene)CEOやブライアン・スティーブンス(Brian Stevens)CTOといったエグゼクティブたちは積極的にパートナー主催のイベントやカンファレンスに出向き,Google Cloudとの提携発表を行っています。とくに元Red HatのCTOでもあったスティーブンス氏は,オープンソースコミュニティの運営に関して深い知見と経験を有しており,2014年にGoogleに入社して以来,エンタープライズビジネスの成功とコミュニティ支援の両立という,Googleにとっての大きなチャレンジにおいてリーダーシップを発揮し続けています。

11月にサンフランシスコで行われたDreamforce 17にスペシャルゲストとして登壇したGoogle Cloudのダイアン・グリーンCEO。このときSalesforceはGoogle CloudをAWSと同様に,同社の顧客向けに提供するサービスのプラットフォームとして採用すると発表した

11月にサンフランシスコで行われたDreamforce 17にスペシャルゲストとして登壇したGoogle Cloudのダイアン・グリーンCEO。このときSalesforceはGoogle CloudをAWSと同様に,同社の顧客向けに提供するサービスのプラットフォームとして採用すると発表した

Google Cloudが2017年にエンタープライズで大きく飛躍した理由のひとつがSAPとの提携強化。とくにHANAがGoogle Cloudでも利用可能になったことはエンタープライズ市場に大きなインパクトを与えた。11月にバルセロナで行われた「SAP TechEd」にはGoogle Cloudのブライアン・スティーブンス氏(左端)がゲストで登壇,クラウドビジネスにおける両者のタイトなパートナーシップを強調している

Google Cloudが2017年にエンタープライズで大きく飛躍した理由のひとつがSAPとの提携強化。とくにHANAがGoogle Cloudでも利用可能になったことはエンタープライズ市場に大きなインパクトを与えた。11月にバルセロナで行われた「SAP TechEd」にはGoogle Cloudのブライアン・スティーブンス氏(左端)がゲストで登壇,クラウドビジネスにおける両者のタイトなパートナーシップを強調している

また,11月にはIntelで長年,データセンター部門のシニアバイスプレジデントとして同社のクラウドビジネスの中核を支えてきたダイアン・ブライアント(Diane Bryant)氏がGoogle CloudのCOOとして入社を果たしています。シリコンバレー,そして米国のIT業界を代表する女性アイコンとしても評価の高いブライアント氏のGoogle入りは業界内でも好意的に受けとめられており,Google Cloudがエンタープライズビジネスにおいて人材面からも攻めの姿勢を取っていることがうかがえます。

Intelのエグゼクティブを長年務め,クラウドビジネスを統括してきたダイアン・ブライアント氏(右)がGoogleに入社したニュースは業界関係者を驚かせた。2018年のGoogle Cloudの飛躍のカギを握る人物としても要注目

Intelのエグゼクティブを長年務め,クラウドビジネスを統括してきたダイアン・ブライアント氏(右)がGoogleに入社したニュースは業界関係者を驚かせた。2018年のGoogle Cloudの飛躍のカギを握る人物としても要注目

エンタープライズの導入実績はまだAWSやAzureの足元にも及ばないGoogle Cloudですが,着々とその底力を見せはじめており,大企業による事例も確実に積み上がっています。もっともGoogleの場合,どうしてもTensorFlowに代表されるAI関連の事例に注目が集まりがちなのですが,2017年はSAPやSalesforce.comがプラットフォームとしてGoogle Cloudの採用を発表し,ブライアント氏をはじめとするクラウド人材を強化したことで,エンタープライズビジネスに本格進出する下準備は完了したといえます。このベースを武器に,Kubernetes導入を含むいかに地に足の着いた"地味"なユースケースを重ねることができるかが,2018年のGoogle Cloudの勝負どころになるように思います。


「アプリケーションの世界にこれまでとは異なる可能性をもたらす,そういう意味で言えばコンテナとは25年前のJavaと同じような存在かもしれない」―これもまた,冒頭で紹介したゲルシンガー氏が同じインタビューの席上で発したコメントのひとつです。⁠Write Once, Run Anywhere」を掲げたJavaがプログラミングの世界に大きなイノベーションを起こしたように,環境に縛られることなくアプリケーションを自由にデプロイ/実行することのできるコンテナは,本番稼働の導入事例が増えるにつれてクラウドの世界のありようを大きく変えてきました。

クラウドコンピューティングはしばしばオンプレミス(on-premise)と対比して「オフプレミス(off-premise)⁠と呼ばれることがあります。premiseという単語には「土地,設備,建物」という意味もありますが,そうであるならば"オフプレミス"とはハードウェアやデータセンターといった物理デバイスからの制約から解き放たれるという,クラウドや仮想化が目指していた本来のゴールを意味しているともいえます。そしてより完璧なオフオフプレミスの世界 ―これまでのクラウドや仮想化技術では不十分だった物理デバイスからの完全なる解放を実現する存在として,コンテナとKubernetesへの期待がますます高まることは間違いありません。クラウドネイティブからコンテナネイティブ,そしてKubernetesネイティブへとエンタープライズITがシフトしている2018年,これまで以上にKubernetesとその中心にいるGoogleの動向に注目していく必要がありそうです。

著者プロフィール

五味明子(ごみあきこ)

IT系の出版社で編集者としてキャリアを積んだ後,2011年からフリーランスライターに。フィールドワークはオープンソースやクラウドコンピューティング,データアナリティクスなどエンタープライズITが中心。海外カンファレンス取材多め。Blog 「G3 Enterprise」やTwitter(@g3akk),Facebookで日々IT情報を発信中。

北海道札幌市出身/東京都立大学経済学部卒。

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