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第523回 Kaby Lake GでパワフルPCを構築する

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5月下旬,IntelとAMDの歴史的協業の産物であるKaby Lake Gを搭載した第8世代のNUCがリリースされました。今回はこのNUCにUbuntu 18.04 LTSをインストールして,どこまできちんと動作するのかを確認します。結論だけ先に述べておくと「そのままでも使えることは使えるが,期待されているすべての機能が簡単に動作するわけではない」です。

第8世代NUCのハイエンドモデル「Hades Canyon」

昨年x86系CPUで長年のライバル関係にあるIntelとAMDが,互いの製品を1つのパッケージにまとめたプロセッサを開発しているという発表が大きなニュースとなりました。⁠Kaby Lake G」のコードネームが付けられたそのプロセッサは,今年頭のCES2018において,次世代のハイエンド向けNUCとなるHades Canyon※1にも搭載されることが発表されます。今回紹介するのは,5月下旬に日本でも発売されるようになった,この第8世代NUC「Hades Canyon」シリーズの最上位モデルである「NUC8i7HVK」です。

※1
ハデス・キャニオン(冥王の峡谷)⁠NUCのコードネームは伝統的に「なんとか Canyon」になっているようです。ハイエンドNUCとしては前機種にあたる第6世代NUCのコードネームが「Skull Canyon」だったり,どちらも深夜の部屋の中でフロントパネルに骸骨が浮かび上がったりするので,何か思春期の青少年にしかわからない意図が含まれているのかもしれません。ちなみに骸骨の照明のケーブルを取り外すことで,簡単に除霊できるようになっています。また,設定ツールからお好みの骸骨の色が選べる仕組みになっているようです。

NUC8i7HVKに搭載されているプロセッサーの名称はIntel Core i7-8809G Processor with Radeon RX Vega M GH graphicsです。とても長いですが,まさに読んで字のごとくIntelの第8世代Core i7プロセッサーに,dGPU(discrete GPU)としてAMDのRadeon RX Vega Mが載った製品だと思ってください。実際に「Kaby Lake G」画像検索してみるとわかるように,Intel CPUと一回り大きなRadeon GPU,さらにGPU用のHBM2がひとつのパッケージに並んでいることがわかります。⁠ひとつのパッケージ」であって「ワンチップ」ではありません。

最近のIntelのデスクトップ向けCPUはiGPU(integrated GPU)としてIntel HD Graphicsやその上位版を組み込んでいるのが一般的でした。Kaby Lake Gにも無印のKaby Lakeと同じIntel HD Graphics 630が内蔵されてはいます※2)⁠しかしながら例えば同じ統合GPU型のCPUであるAMDのAPUと比べてみても,見劣りするグラフィックス性能でした。

※2
Hades Canyonの場合,iGPUをディスプレイ出力には使用できません。6ポートのディスプレイ出力はすべてdGPUを利用します。iGPUを活用したVA-API/Intel QSVは利用可能です。

Intel自身が高性能なdGPUを開発している噂はありますし,実際に検証目的のdGPUに関する発表はこれまでにもありました。AMDからRadeon部隊のトップを引き抜いてもいます。おそらく今後もiGPUの性能向上には注力していくことになるのでしょう。ただし短いタイムスケールを考えるとどうしても性能という名の商品価値に差が出てしまいます。

そこで出てくるのがdGPUとしてRadeonを搭載する話です。特にIntelは積層型DRAM技術であるHBMに注力しています。TSVシリコンインターポーザーよりも低コストなチップ間インターコネクトのEMIBも開発しました。今回のKaby Lake GではこのEMIBをGPUとHBM2の間に用いることで,小型化・低価格化に成功しています。Kaby Lake Gの直接の競合であるRyzen 5 2400Gを始めとするデスクトップ版の「Raven Ridge」シリーズがHBM2を採用しなかったことに対して大きなアドバンテージになるでしょう。

ここまでUbuntuの話が一個も出てきていませんね。

Hades CanyonとRaven Ridgeを比較する

Raven Ridgeと言えば第510回「AMD Ryzen GでパワフルPCを構築する」です。今回はHades CanyonにUbuntu 18.04 LTSをインストールして,第510回で行われたLibreOfficeのビルド時間と比較することにしましょう。

次の表が今回使用するマシンのスペックです。

種類 メーカー 型番
CPU Intel Core i7-8809G
メモリー Crucial CT16G4SFD824A(DDR4-2400 SO-DIMM 16GBx2)
SSD Western Digital WDS500G2X0C (NVMe 500GB)
筐体 Intel NUC8i7HVK

メモリースロットはSO-DIMMです。いわゆる「ノートPC用メモリー」と言う名前で売られているタイプの形状ですね。デスクトップ用に使われるDIMMとは大きさだけでなく,ピンの数も切り欠きの位置も違います。よってDIMMをスモールライトで小さくしても刺さらないので,購入の際は注意してください。

ストレージ用のM.2スロットの空きは2つあります。どちらもNVMe PCI 3.0x4/SATA 3.0の両対応のようです。今回は1スロットだけ使っています。接続用のネジが筐体内部にあります。ちなみに片方のM.2スロットの下にはWi-Fi/Bluetooth用のIntel AC 8265が刺さっています。

とりあえずNUC本体とメモリー,M.2 SSD,あとHDMIケーブルと電源ケーブルさえあればなんとかなります。ACアダプターは付いてきますが,電源ケーブルは付いてきませんでした。電源ケーブルのコネクター形状は,NUCで良く使われているC5型※3ではなく,デスクトップPCで使われているC13型です※4)⁠

※3
3つの黒い丸を逆三角形の頂点に配置した例の存在のシルエットに似ているアレ。
※4
電源ケーブルのコネクタ形状や名称は,WikipediaのIEC 60320の記事の図がわかりやすいです。

各種パーツをセットアップしたらまずは立ち上がることを確認しておきましょう。後ろのHDMIコネクタをディスプレイに接続し,フロントの電源ボタンを入れてしばらくすると「起動メディアがない」を英語にしたメッセージが表示されるはずです。UEFIの設定画面を起動するには,電源ボタンで一度電源を切った上でF2キーを押しながら電源を入れてください。

UEFIの設定画面が起動することを確認したら,OSのインストールよりも前にBIOSのアップグレードを行っておきましょう。5月末時点での最新版は「HNKBLi70.86A.0040.2018.0516.1521」のようです。BIOSのバージョンはUEFIの画面の左上あたりに「BIOS Version」として表示されています。購入した時点では,真ん中の「0040」以降が「0034.2018.0329.1113」になっていました。

最新のBIOSファームウェアはIntelのサイトからダウンロードできます。絞り込み条件を「BIOS」にし,⁠BIOS アップデート」を選択してください。ダウンロードするのは拡張子が「.bio」の1つのファイルだけです。ダウンロードした拡張子が「.bio」のファイルをFATフォーマットしたUSBメモリーに保存します。あとはUSBメモリーを接続した状態でF2キーを押しながら起動します。⁠BIOS Version」の後ろの方に「Update」リンクが存在するはずなので,それをクリックしてあとは画面の指示に従ってください。ダウンロードページにある「Read Me」「Release Notes」も一度目を通しておくと良いでしょう。

またUEFIの設定画面では「Secure Boot」をオフにしてください。これは今後カーネルモジュールを変更したり,カーネルそのものを差し替えるために必要になります。もちろん自分でSecure Bootの鍵を管理し,カーネルに署名を行う場合はその限りではありません※5)⁠

※5
UbuntuにおけるSecure Bootの扱いについては第444回を参照してください。

次にメモリーのテストを行います。UEFIではないレガシーBIOS環境であれば,Ubuntuのインストーラーに付属のMemtest86+を使ってメモリーテストを行えるのですが,このプログラムはUEFIに対応していません。UEFI環境の場合はプロプライエタリではあるもののMemTest86を使うと良いでしょう。MemTest86の最新のFree Edition(V4系より新しいバージョン)はUEFI環境でのメモリーテストもサポートしています。ダウンロードページの「Image for creating bootable USB Drive」のリンクをクリックし,ダウンロードしたアーカイブを展開し,memtest86-usb.imgddコマンドや第488回でも紹介しているEtcherなどでUSBメモリーに書き出してください。たとえばUSBメモリーが/dev/sdbに繋がっているのなら以下のとおりです。

$ sudo dd if=memtest86-usb.img of=/dev/sdb
$ sudo sync

あとはそのUSBメモリーを接続して起動すれば,メモリテストプログラムが動作します。基本的に初期設定のままテストを動かせば良いでしょう。MemTest86は4回テストが成功したら自動的に終了します。Hades Canyonと32GBのメモリーの組み合わせだとおよそ7時間ぐらい必要でした。ちなみにテスト中もファンは静かで,筐体も若干暖かいかな?と感じなくはないぐらいの,ほぼ平温のままだったような感じです。

これでNUC側の準備は完了です。

著者プロフィール

柴田充也(しばたみつや)

Ubuntu Japanese Team Member株式会社 創夢所属。数年前にLaunchpad上でStellariumの翻訳をしたことがきっかけで,Ubuntuの翻訳にも関わるようになりました。

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