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【イベント開催連動企画】 IoTシステムをビジネスに活かす~技術者が持つべき視点とは

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ネットワーク

IoTにおいては,ネットワークは現在,非常にホットな分野で,世界各地でIoT向けの新しい通信方式への取り組みが行われています。IoTで必要とされるような,通信帯域は広くないものの低消費電力で通信料金の安価な通信方式が,日本含め世界で展開されていきます。

カテゴリ1(Cat.1)に対応したモジュール

国内ではセルラー通信であるLTEの規格の1つである「カテゴリ1(Cat.1⁠⁠」という規格に対応したLTEモデムが出始めています。この規格は,通常スマートフォンなどの人が使うセルラー通信(Cat.4)に比べると通信速度は遅いものの,多くのIoT用途には十分な速度をサポートしつつ,モデムのサイズや価格,消費電力を抑えたものになっており,通信頻度によっては,電池で数ヶ月の運用を行うことができます。また通信基地局やSIMカードなどは既存の設備が利用できるため,製品が出回ればすぐに普及するものと思います。

例えば2016年10月には,ソフトバンクと東京ガスが,自宅のガス機器と連動したIoTシステムの実装実験を開始していますし,さくらインターネットは「さくらのIoT Platform」という名前のIoTプラットフォーム用に,Cat.1のモデムが搭載された通信モジュール図5を提供しています。

図5 さくらのIoT Platform用モジュール

図5 さくらのIoT Platform用モジュール

【出典】https://iot.sakura.ad.jp/product/

Cat.1以降も,さらに小型で安価,低消費電力のセルラー通信モジュールとして,Cat.M1やNB-IoT(Cat.NB1)の規格に沿ったものも登場してくる予定となっており,さまざまモノにセルラー通信が搭載しやすくなってきます図6⁠。例えばNB-IoTと呼ばれる規格であれば,モデムの実装が容易な分,価格も安くなっており,1モデムあたり数百円で購入できるようになると予想されています。

図6 LTEの規格

図6 LTEの規格

LoRaWANやSigFoxなどの普及

またLoRaWANやSigFoxといったネットワークも,2017年初頭では実証実験段階の案件がほとんどですが,通信モジュールが出回り,ネットワークインフラが整っていくにつれて,商用サービスも着実に増えていくことになるでしょう。例えばオランダでは,2016年に通信キャリアであるKPNが,オランダ全土で利用できるLoRaWANネットワークの提供を開始しました。屋内屋外問わず使える,安価で低消費電力なLPWANを国中で利用できるということは,多くの企業にとって大きなアドバンテージと言えます。

また日本においても,⁠株)ソラコムがLoRaWANの事業を,京セラコミュニケーションシステム⁠株⁠がSigfoxの事業を開始しています。今後日本でも,安価なLPWANが利用できるインフラが整ってくると期待されます。

その他にも,例えば第5世代移動通信システム,通称5Gと呼ばれる,10Gbpsもの通信速度が利用できる次世代のLTEの規格化や,衛星通信を使ったLTEなども実証実験が行われており,インターネットが普及していったような勢いでIoTのネットワークが広がっていくことでしょう。

ネットワークはIoTシステムの一部であり,デバイスとクラウドをつなぐいわば神経の役割を担います。デバイスを実装するにせよ,アプリケーションを実装するにせよ,IoTシステム全体を問題なく動かすために,こういったネットワーク技術のトレンドを抑え,各通信規格の特性を抑えておくことが重要となるでしょう。

クラウド

従来はサーバやストレージと言った基本的なITリソースの提供をメインとしてきたAWSやAzure,GCPといったメガクラウドベンダは,機械学習や画像認識のような,より高度なクラウドサービス提供を加速させています。

例えば2016年11月にラスベガスで行われたAWSの大型イベントである「AWS re:Invent 2016」では,50を超える新サービス/新機能が発表されました。IoTシステムに関係のありそうな新サービスだけでも表1のようなものが挙げられます。

表1 ⁠AWS re:Invent 2016」で発表された新サービス(一部)

サービス名内容
Amazon Rekognition画像認識/分析サービス
Amazon Pollyテキストスピーチサービス
Amazon Lex音声認識/自然言語理解のサービス(Alexaと同一の技術で構築)
Amazon EC2 Elastic GPUGPUをAmazon EC2(仮想サーバ)に追加できるサービス
Amazon QuickSightBI(Business Intelligence)サービス
Amazon AthenaSQLを使った大規模データ分析サービス
AWS GreengrassIoTデバイスにIoTバックエンドで動作するAWS Lambdaを組み込むサービス
画像認識や音声認識サービス

画像認識サービスであるAmazon Rekognitionと同様に,テキストスピーチや音声認識もAPIを使ってサービスを呼び出すだけで,その機能を利用することができます。Elastic GPUを利用することで,GPUを購入する必要もなく,TensorFlowやMXNetといった深層学習フレームワークを利用することができますし,AmazonQuickSightやAmazon Athenaを利用すれば,データさえあれば,分析基盤を構築することなくデータ分析を開始することができます。

このようなサービスは各クラウドベンダが持っており,重要な点はこれらがサービスとして提供されるという点です。すでに出来上がったシステム環境を初期費用なしで利用することができるため,例えば画像認識を行うシステムの環境を構築する,という作業自体が差別化にならなくなってくる可能性があり,それよりもこのサービスを使って,どのようにビジネスにつなげるか,実現したいビジネスに対してどのように利用するかといった観点のほうが重要となってきます。

デジタル側から物理側にアプローチ

またAWS Greengrassは,AWS Lambdaをデバイス側で実行できるようにしたサービスです。クラウド上で動作するAWSLambdaがそのままデバイス上で動作する仕組みとなっており,それに必要なデバイスへのLambdaの配備や管理,データの同期などを,このGreengrassが担う形になります。デジタルツインのデジタル側から,物理側に影響を与えるためのフレームワークとも言えるでしょう。無数に増えるデバイス群に対して,管理が行いやすいデジタル側からアプローチをしてIoTシステムを動かすという仕組みは,今後主流になる可能性があります。

クラウドサービスは進化が早く,サービス数も膨大であるため,すべてを覚えきるのはかなり困難です。しかしながら,どのようなサービスをどのベンダが提供しているのか,どのようなことができるのかといった情報を定期的に集め,利用できそうなサービスはまず触ってみてサービスの良し悪しを見ておく,ということは有用です。IoTシステムはいかに早くトライ&エラーを繰り返してビジネスを作るかがポイントになりますので,使えるクラウドサービスを知っているかどうかで,そのスピードに大きな差が出る可能性があります。

アプリケーション

アプリケーションの領域は,実現するビジネスによりその内容が大きく異なりますが,やはりクラウドの利用方法や,クラウドで提供されているサービスを知り,そして触っておくことが,技術者としては重要なポイントと言えます。

Amazon RekognitionやAmazon Pollyと言ったサービスは,そのまま画像解析などのアプリケーションの一部として利用できますし,Amazon QuickSightやAmazon Athenaも同様に,データ分析基盤の一部として利用することもできます。

IoTシステムがビジネスとしての価値を生む部分は,やはりアプリケーションとなるため,このようなクラウドサービスを利用していかに早くアプリケーションを構築し,利用者のフィードバックを得ながら改修を繰り返すことが重要となります。

また,作成したIoTシステムが,他のシステムから利用されるケースも考えられます。例えばデータを集積するだけでなく,そのデータを使った受給予測や他システムとの連携により,新たなビジネスに繋げることも可能です。むしろ従来取得することができなかったデータを取得したり,ネットワークを通じて現実世界に影響をおよぼすことができるIoTでは,このようなビジネスの可能性が大きいと考えられます。

技術者としてはこのような可能性に目を向けつつ,その際に必要な知識(例えばデータ提供を行う際のAPIの定義の仕方やデータフォーマット,システム間の認証方法など)を身に付けておく必要があるでしょう。

セキュリティ

IoTでは特に,デバイス保護は大きく伸びる分野でしょう。例えばソフトバンクが買収したチップベンダのARM が提供するARMプロセッサには,TrustZoneと呼ばれるセキュア領域が実装されたものがあり,これを利用することで汎用OSからは見えない領域で,暗号鍵やIDなどのデータを処理することができます。またSIMカード自体はもともと,耐タンパー性を備えたチップで,内蔵のアプレットで処理を行うこともできます。

今後,デバイス上のセキュア領域を使って安全にデバイス側を実装する方法も,普及していくと考えられます。またIoTシステムは数多くのデバイスがぶら下がることになるため,IoTシステム自体の監視や異常検出なども重要になってくると考えられます。例えば通信トラフィックや通信パターンなどを元に異常を検知して,必要であれば自動的に通信を遮断したり,デバイスを停止させるような仕組みです。実際に,IoT通信を提供するソラコムは,APIを使って通信を遮断することができますので,異常検知と合わせて利用することができるでしょう。

LWM2M

またデバイス管理ではOMA(Open MobileAlliance)が策定したLWM2Mと呼ばれる規格が,IoT用途として利用されつつあります図7⁠。

図7 LWM2Mで制御されるデバイス

図7 LWM2Mで制御されるデバイス

これはスマートフォンなどの管理を行う「OMA DM」と呼ばれる規格をIoT/M2M用途にブラッシュアップしたもので,CoAPと呼ばれるUDPベースの通信プロトコルに,デバイスの状態をJSONやTLV(Type-Length-Value)の軽量フォーマットを使って,デバイスとクラウドで状態をコントロールするものです。

JavaのIDEで有名なEclipse.orgにはIoTに関するオープンソースがいくつもあり,IntelやSIERRAWIRELESS,BOSCHといったメーカーの技術者が実装を行っています。Eclipse LeshanはLWM2Mの実装の1つで,Javaのクライアントとサーバの実装があります。またCで実装されたEclipseWakkamaというオープンソースもあり,こちらはデバイスへの組み込みで利用することができます。

クラウドベンダも,デバイス管理サービスを提供しているため(例えばAzure IoT Hub⁠⁠,クラウドサービスも定期的に確認を行い,利用するデバイス,OS,プログラミング言語などと合わせて,利用しやすいサービスを検討するとよいでしょう。

いずれにせよ,IoTシステムに対する攻撃やその防御手段はまだ発展途上であり,各セグメントでこれから増えていきます。セキュリティはIoTシステムの設計段階から組み込んでおくことが最も重要なため,後手に回らないよう,セキュリティに関しても情報収集を行う必要があるでしょう。

著者プロフィール

片山暁雄(かたやまあきお)

現職は(株)ソラコムで自社サービス用のソフトウェア開発/運用に携わる。前職はAWSにて,ソリューションアーキテクトとして企業のクラウド利用の提案/設計支援活動を行う。好きなプログラミング言語はJava。

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