サイバーエージェントを支える技術者たち

第60回 エンジニアのレベルの底上げをねらう「Skill U Friday」

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SECIモデルのサイクルに乗るようにコンテンツを充実

――つまり,その場だけの勉強会ではなく,参加していない人でも参照できるように,その内容を社内用コンテンツとしてまとめておくということですね。

織田:どうしても勉強会はその場限りになりやすいですよね。また,主催者側はとりあえずテーマを投げるだけで,参加者がどのようにとらえようとそれは参加者しだいというのでは,エンジニアの身にならないとも思っています。それで結局エンジニアが「よくわからなかった」というと,それで終わりなんですよね。コンテンツとして残しておけば,勉強会が終わったあとに内容を振り返ることもできますし,なおかつ部内でシェアするといったことも可能になります。

ナレッジマネジメントの中で,暗黙知と形式知をどのようにサイクルさせるかという「SECIモデル」というフレームワークがあります図2⁠。個人と個人の関わりだけだと,徒弟制度を設けてメンターがメンティーを育成するといった形がありますが,勉強会としてはその先,つまり暗黙知をチームや組織で形式知として共有するにはどうすればいいかを考える必要がありました。そこで,勉強会の開催条件や形式を絞らず,テーマによってSECIモデルにおけるフェーズを計り,それに最適な形で場を提供するということと,SECIモデルのサイクルに乗るようにコンテンツを充実させて,そのコンテンツをみんなで持ち寄ることによって標準化につなげるというところを意識しています。

――コンテンツとしてまとまっていれば,わからなかったことを再度確認するといったこともできますね。

織田:勉強会に参加したエンジニアがそれを持ち帰って試して,自分の工夫も交えて新たなノウハウとしてまとめ,それを勉強会で発表するというサイクルが理想です。こうした勉強会は,ノウハウを持っていてそれを循環できる人にばかり登壇してもらうようになると,その人は引き出しから自分のものを出すだけになってしまいます。そうではなく,参加者がいずれ登壇する側になるというサイクルを生み出せれば,主催側と参加者,そして会社のそれぞれにとってメリットになると考えています。

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図2 暗黙知を形式知として共有するためのSECIモデル。⁠知識創造企業』⁠東洋経済新報社刊)の中で野中郁次郎氏と竹内弘高氏が提唱した「SECIモデル⁠⁠。4つのプロセスで知識を共有し,新たな知識を創造するためのフレームワーク

図2 暗黙知を形式知として共有するためのSECIモデル。『知識創造企業』(東洋経済新報社刊)の中で野中郁次郎氏と竹内弘高氏が提唱した「SECIモデル」。4つのプロセスで知識を共有し,新たな知識を創造するためのフレームワーク

社外のエンジニアも積極的に招聘

――自分のノウハウをこうした勉強会を通じてプレゼンする,発表者側のメリットとは何でしょうか。

織田:人によって違う部分があると思いますが,1つは自分の取り組みや知識を身近な人に知ってもらいたいという願望ではないでしょうか。また,自分がやっていることに対して意見がほしい,あるいは自分以上のノウハウを持っている人から吸収したい,議論したいというのもあると感じています。

サイバーエージェントの場合はプロジェクトを軸とした組織になっていて,チームの中でインフラエンジニアやデベロッパが1人しかいないというケースもあります。そうすると,自分で考えたことがそのままプロジェクトに反映されて,あとの運用にも影響を及ぼすことになりますよね。それでも,プロジェクトにアサインされたからには自分で判断して決断しながら仕事を進めていかなければなりません。そのとき,勉強会で自分がやっていることを発表し,⁠自分はこのように考えてプロジェクトを進めたけれど,どう思う?」といったように話を聞けるわけです。

仕事を進めるうえで壁にぶつかったり,自分では解決が難しい問題が立ちふさがったりすることはありますよね。あるいは壁をこういう方法で乗り越えたけれど,それが合っているかどうかわからないとか。そのとき,公式の勉強会であれば本当に数多くの人が集まっているので,そこで発表して意見がもらえれば,その人にとってはすごく助かるのではないかと考えています。

――これまでの勉強会で,一番盛り上がったのはどういった内容だったのでしょうか。

織田:つい最近の話ですが,サイバーエージェントが主催しているフロント系の技術セミナーである「Frontrend」と,GoogleのChromeチームのエンジニアが講師となる「Chrome Tech Talk Night」がコラボレーションした「Frontrend x Chrome Tech Talk Night Extended」ですね。実は社外の方に講師として登壇していただいたり,外部のイベントと共同でサイバーエージェントが場所を提供したりといった勉強会も行っています。そのときはGoogleのAddy Osmani氏とJake Archibald氏,そしてPaul Irish氏に講師を務めていただきました。これは大盛況でした。

準備に時間をかけるよりまず勉強会の流れを作る

――こういった勉強会を自分の会社でもやりたいという人は多いと思います。アドバイスはありますか。

織田:始めるときに,文化の形成という意識を強く持つことが大切だと感じています。運用をどうするか,あるいはテーマをどう選定するかが気になるという人が多いかもしれませんが,実はそういったことはあとからでも何とかなるんですよね。なので,あまり形から入るのではなく,勉強会を継続させていくことで,組織として何を形成し達成するべきかという目的意識を持つことが重要ではないでしょうか。

とりあえず集まって何かしようというような軽い意識でやっていると,なかなか続かないんですよね。新しい文化を創るんだという意識を持って取り組み,それを周りに話して協力者を得ながら進めていく。

そういった意味で,ちゃんとゴールが設定されていて目的意識があれば,多少準備不足でもかまわないのではないでしょうか。おそらく,ちゃんと準備されていないから参加しないっていう人はそんなにいないでしょう。仮にそういう人がいたとしても,その場はそれでもかまわないと割り切ってしまう。ただ,いつでも参加できるようにしておいて,最初に反対した人でもあとから参加できるようにしておく。つい準備に時間をかけたくなりますが,それよりも勉強会の流れを作ることが重要です。

――最後に,今後の展開を教えてください。

織田:現在は勉強会をSkill U Fridayという名称でやっていますが,徐々に規模が大きくなってきて,細かなノウハウは発表するべきではないといった空気がちょっとずつ出てきているんですね。それを感じ取ったので,職能別といった形で小さな座談会を作ることを考えています。

たとえばインフラだったらインフラトークのような形で,職能別でトークセッションするといった場を作る予定です。ここでは,結論がなくても検証がなくてもいいですと。とにかくその職能で集まって話しましょうということです。そこでまとまったネタを表に出して,Skill U Fridayで発表するというような流れを作りたいですね。

いずれにしても,とにかく気軽に取り組みつつ,設計されたものを計画的に積み上げていく。その堅さと柔らかさをうまい具合に混在させて,それぞれのエンジニアが持つノウハウやTipsをサイバーエージェントの知識として活かせるようにすることを目標に,これからもナレッジマネジメントを続けていきます。

図3 勉強会に対するアンケートの結果。勉強会を開催したあとは必ずアンケートを実施し,その結果を登壇者にフィードバックしているという。またコメントで登壇者に質問が寄せられることもある

図3 勉強会に対するアンケートの結果。勉強会を開催したあとは必ずアンケートを実施し,その結果を登壇者にフィードバックしているという。またコメントで登壇者に質問が寄せられることもある

著者プロフィール

川添貴生(かわぞえたかお)

株式会社インサイトイメージ代表取締役。企業サイトの構築及び運用支援のほか、エンタープライズ領域を中心に執筆活動を展開している。

メール:mail@insightimage.jp