インタビュー

Wave Computing(MIPS)とEsperanto Technologies(RISC-V)への取材を通して見た,オープンソースプロセッサというムーブメント

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垂直統合でのユーザとの関係

WaveがMIPSを買収したのは垂直統合のためでしたが,エッジ側でのユーザとの共創のために,それをオープンにする。これを聞いて筆者はちょうど同じ日の午前に取材したNGINX社で語られた,F5によるNGINX買収のストーリとの相似性を感じました。

つまりF5 のような(ある種の)上流に位置するシステムを作っている企業は,もっと顧客のアプリケーションと緊密な立場でインテグレーションすることを望んでいる。一方,多くのユーザ企業のエンジニアが自社システムを構築する際にNGINXを試し,結果や問題,改善提案をコミュニティに出している。そしてNGINXの開発自身がその中で行われているのだから,そうしたユーザ企業の状況を最もよく知るポジションにいるのがNGINXだ,と。

つまりF5はネットワークの上流にいるが,NGINXはユーザ企業のR&D(研究開発)のただ中にいて,現場で何が望まれているかを最もよく知ることができる。それを知らずに,F5はその上流での競争力を維持できない。そういうことです。


筆者:これとWaveによるMIPS買収とオープン化の流れは共通する部分があると思えます。

つまりWaveの垂直統合の中でMIPSは一番下の層にあり,そこにユーザが居るわけですよね。

Art:はい。⁠安田が紹介したNGINXの事例とは)興味深い関係性がいくつもあります。Waveから見るとMIPS IPはAIアクセラレータとして使われています。しかしMIPSは顧客,ユーザとつながっています。⁠MIPSの買収によって)Waveはサプライヤーとカスタマー両方の立場に立てることになるため,このインテグレーションはとても価値があります。

我々のAIソフトウェアチームはとても強く,エンドユーザのAIアプリケーションにフォーカスしています。そこで垂直統合されたソリューションを作るためには,ユーザの内側にある実際のユースケースやオープンソースの蓄積が非常に重要です。

筆者:リアルな,また具体的(specific)なユースケースですね。

Art:そのとおり。人々が実際にどんなことをしているか,どんなAIをいまビジネスでデプロイしているか。これが最もエキサイティングなパートだからね。


今,オープンソースソフトウェアが強いパワーを発揮している大きな理由の1つが,この「サプライヤとユーザが同一である」ことだと思います。⁠現場で起きていることを最もよく理解している者が最も強い」のです。つまり昨今のプロセッサのオープン化の流れを理解するためのキーの1つはこの視点だと筆者は考えています。

玄関に飾られていたWave AI Engineのモデル

玄関に飾られていたWave AI Engineのモデル

ハードをソフトで作る

いまユーザ企業あるいはそこに近いところでのプロセッサを含めたハードウェア開発がかつてなく活発になっています。その要因として,現在のハード開発がとてもソフト寄りになっていることがあります。


Art:今,多くの作業がソフトウェア開発と同じ方法でできるようになっていますね。そのせいで1人の人間の能力が通常の10倍ほどに効いてきたりして,1人がどのくらいを作業をこなすか,予測しづらくなっています。

筆者:ソフトウェアの領域でまさに起きていることですね。

Art:もうあなたのところの学生も電子工学(electrical engineering)指向ではないですよね?

筆者:すごく少数派です。学ぶ時間が掛かるので。ソフトはイタレーションの速度が速い。自分の成長速度を気にしている学生にとってハードは時間が掛かり過ぎるのです。

Art:そこ,興味深いところです。なぜならオープンソースハードウェアはとても早く成長するからです。⁠そう思います。)Software,FPGAなどはとても早く進みます。


Artの指摘どおり,筆者の勤務先の学生でも,パワフルな学生は1年次からFPGAを触り,自分のハードウェアを作っています。年々ハードウェアの作業がソフト寄りになり,ソフトウェア開発の素早さを身につけ始めています。

ハードウェア開発作業がソフト寄りになるだけでなく,今,利用者に受け入れられるプロセッサとなるためには,ソフトウェア開発者が使い慣れたツールセットへの対応が不可欠です。つまりLLVMなど一般的なコンパイラ,QEMUなど一般的なCPUエミュレータなどに対応し,普通のLinuxがそのまま動くことなどが重要です。そのためにはオープンソースであることがとても重要で,そこに人を引き込むにはプロセッサ自体がオープンであることが必須です。

今はもうプロセッサはソフトのためにソフトで作る色合いが濃くなりました。そのための分厚いソフトウェア資産を積み上げるには,オープンソースであることがとてもうまく機能するのです。

Wave社入口ロゴタイトル前にて

Wave社入口ロゴタイトル前にて

著者プロフィール

安田豊(やすだゆたか)

京都産業大学コンピュータ理工学部所属。KOF(関西オープンフォーラム)やiPhoneプログラミング勉強会などのコミュニティ活動にも参加。京都の紫野で育ち,いまは岩倉在住。せっかく復帰させたCBX 400Fに乗る機会がなく残念な日々を過ごしている。

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2019

  • Wave Computing(MIPS)とEsperanto Technologies(RISC-V)への取材を通して見た,オープンソースプロセッサというムーブメント