レポート

「長く使える技術力を自分に蓄えていく」―はてな伊藤直也氏がジュンク堂書店大阪本店トークセッションに登場

この記事を読むのに必要な時間:およそ 3 分

次のステップ「計算機科学」「数学嫌いの克服」

そんな伊藤氏の考える次のステップも紹介された。それは「科学」⁠ウェブ時代5つの定理⁠梅田望夫,文藝春秋)で紹介されていたという,Vinod Khosla氏の言葉を引用し,⁠科学は何かを10%や20%に良くするのではなく100倍よくする可能性を秘めている。私はその力に興奮を覚える」⁠計算機科学への興味が強まると,数学が避けては通れず「30歳からの数学嫌い克服」に挑戦した。

学生時代には即時的に「どう役に立つか」を考えてしまい数式に興味がなかなか持てなかったが,⁠なぜそれが発見されたのか」に着目するとおもしろさが沸いてきて,しだいに「学問の理解を助けるのは背景」なんじゃないかと思うようになったという。

学問の理解を助けるのは背景

学問の理解を助けるのは背景

苦手だった代数幾何では,代数学と幾何学を行き来し両者を駆使して問題を紐解く理由が理解できた。そんなときには,すごい,わかったという感覚があった。自ら学ぼうとしたことで見方が変わった。大学時代に専攻した物理の数々の式,法則の意味がしだいに明らかになるにつれ,当時では得られなかった感動を覚えた。

そして今,読み進めている本は計算機を科学し,本質的な理解へとつながるであろうアルゴリズムイントロダクション 改訂2版⁠Thomas H. Cormen/Ronald L. Rivest/Charles E. Leiserso原著,近代科学社)の第1巻,第2巻と,かつて憧れていた大規模情報検索分野のIntroduction to Information Retrieval』⁠Christopher D. Manning/Prabhakar Raghavan/Hinrich Schutze著,Cambridge University Press)とのこと。数式が登場することに抵抗はなくなった。

「継続的な学習」「人に会う」,それと「この道でやっていこう」という覚悟

自分と技術書の接点をたどりながら前半のトークを終え,後半では一技術者としての心懸けていることや,これから向かうところへと話が展開。

尊敬するプログラマの書棚を見て,本質的かつ読むのに時間がかかる書籍がずらりと並んでいたという。この人はずっと学習を続けているんだ,すごい,と衝撃を受け,⁠学習の継続」を心懸けるようになった。合わせて,学習意欲の維持に必要だったのは,⁠この道でやっていこう」という覚悟じゃないかと改めて思ったそう。

「この道でやっていこう」という覚悟

「この道でやっていこう」という覚悟

継続的な学習ともう一つ大切なことは「自分に足りないものを見つける」こと。そのために「人に会う」⁠仕事で困難にぶつかる」ことは欠かせない。とくに,外に出て「人に会う」というのは「継続的な学習」とは前進するための両輪だという。人に会うだけで満足はしていられない。

人に会えば,その人が自分の先を行く姿を見て,うらやましい,嫉妬することさえあるのだが,それが「本を1ページめくる努力」⁠自分で自分に自信が持てるまで,愚直に」という学習をし続けることに繋がる。そして,このような継続的な学習を経て改めて知ったことは,⁠コンプレックスの原因そのものを乗り越える以外に,それを克服する方法はない」と。

「それでも技術者でありたい」

また,⁠技術者は楽しいことばかりではない」こともよく知っておいてほしいそうだ。学んだカーネルの話をしても理解してくれる人が常に周りにいるわけではなく,学習が進み深く潜れば潜るほど孤独になることもあるし,楽しい趣味をはじめ犠牲にしなくてはならないものもたくさん出てくる。

一方で,継続的な学習はチャンスを導き,自らの視点を広くし,人生を豊かにしてくれる。だから,⁠それでも技術者でありたい。自分が生きた証を残したい」⁠エンジニアにはそれができるから,やっぱり技術者であり続けたいと思うそうだ。

私と技術書,結びに

現在は,早朝起床し,出社前に読書する習慣を作れているとのこと。⁠正直,なかなか気分が乗らないこともあるんだけれど,本を手に取り10分くらい眺めているうちにおもしろくなって進む,みたいなことが多いかもしれない」というくだりでは,いたく感心している参加者が多かった模様。また,⁠そうそう,人にお勧めの本を聞くと,その筋の決定版,分厚い,難しいのを紹介されることが(いろいろな背景で)多いけれど,まあそれはそれで聞いておいて,自分にあった本を繰り返し読むことからはじめていいと思います」という話しは,多くの参加者から「あるある」⁠そうかそうか」というような共感を集めたようだ。

質疑応答

質疑応答

「技術書は私にとっての先生です」⁠読書による継続的な学習がいつも未来を切り開くと信じています」と,今回の話を結んだ伊藤氏。1ページずつ本をめくり,一つ一つの問題,多くの人と相対しながら着々と技術力を蓄え続け,今,次なるステップへ向けて進みはじめているという同氏の言葉に,満席の会場から大きな拍手が贈られた。

バックナンバー

2008年

バックナンバー一覧

コメント

コメントの記入