レポート

テストエンジニアのモチベーションは上がりにくく下がりやすい!?─JaSST'14 Tokyo基調講演レポート

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テストエンジニアという仕事は,Webのフロントエンドプログラマやインフラエンジニアなどに比べ,⁠割に合わない仕事」と思われている部分が少なくないかもしれません。納品先でトラブルが発生すれば「テストはしなかったのか,テスターは何をしていたんだ!」と怒鳴られ,問題なければ顧客からも上司からも華麗にスルー。表立って評価される機会は非常に少なく,そうした環境で"モチベーションを高く"保ちながら仕事をするのはかなり難しいのでは…と素人目にも見えてしまいます。

そうした逆境(?)にも見える一方で,テストエンジニア/テスターと呼ばれることに非常に高いプライドをもって仕事をしている方々も数多く存在します。プロジェクトにおいて注目されにくいテストというフェーズをモチベーション高く乗り切り,品質の高いソフトウェアを世に送り出すために,テストエンジニアは,そしてテストエンジニアを束ねるテストマネージャはどういうったポイントを意識すべきなのでしょうか。本稿では3月7日,東洋大学 白山キャンパスで開催された「ソフトウェアテストシンポジウム 2014 東京」の基調講演の内容をレポートしながら,テスターのモチベーションについて考えてみたいと思います。

600名超のテストエンジニアによる意識調査から見えるもの

基調講演を行ったのは,英国コンピュータ協会フェローで,長年に渡って国際的なテストコミュニティをいくつも指導してきたスチュアート・リード(Stuart Reid)氏です。リード氏は現在,ソフトウェアテストと品質保証を中心にサポートを行うTesting Solutions Group(TSG,本拠はロンドン)のCTOを務めています。

スチュアート・リード氏

スチュアート・リード氏

「Tester Motivation(テスターのモチベーション)⁠と題された今回の基調講演では,世界中の600名を超えるテスターを対象にTSGが行ったアンケート(質問数は40)をもとに,テスターのモチベーションに関する興味深い調査結果がリード氏より紹介されました。参考までに,以下,対象者の属性の概要を挙げておきます。

テスターの居住地域

欧州228名
オーストラリア247名
アジア39名
北米22名
アフリカ4名
南米3名
中東2名

テスターの役職

テストアナリスト136名
テストマネージャ136名
テストリード68名
テストコンサルタント47名
テスト長37名
デベロッパ/テスター25名
その他96名

テスターが所属する企業の規模

1,000人以上237名
250~1,000人108名
50~250人108名
10~50人68名
2~10人23名
1人17名

対象者の業種は幅広く,金融/保険,IT,公共,政府関係,ヘルスケア,流通/小売など多岐にわたっていますが,製造業からの回答はごくわずかとなっていました。また,対象となったテスターが所属する企業/部門は「組織内のIT部門」が圧倒的に多く,⁠IT企業」⁠テストサービス企業」がそれに続いています。その他,個人事業主のコンサルタントやコンストラクタも含まれているとのことでした。

またライフサイクル管理の手法として最も多数を占めたのは「ウォーターフォール」でしたが,28%ものテスターが「アジャイル」を採用していると回答しています。これについてリード氏は「アジャイルの人気が上辺のものではなく,確実に手法として現場に浸透していることを実感する」と評価しています。

3つの「モチベーション理論」

ご存知の方も多いと思いますが,モチベーション理論という学問は70年以上の歴史があり,エンジニアのモチベーションに関してもさまざまな説が提唱されています。リード氏はいくつもの世界的に有名な理論の中から,テストエンジニアは以下の3つに注目すべきとしています。

フレデリック・ハーズバーグの二要因理論のうちの「衛生理論」(1959年)
衛生要因(給与,人間関係,上司の質など)が不足すると不満を感じるが,満たされたところでモチベーションの向上にはつながらない
リチャード・ハックマン&グレッグ・オールダムの「職務特性理論」(1976年)
影響力の大きい仕事,多様な技術や特殊な能力を要する仕事,フィードバックのある仕事などを与えられるとモチベーションが上がる
ダニエル・ピンクの「モチベーション3.0」(2010年)
生存のためのモチベーション(モチベーション1.0)や"アメとムチ"タイプの外的な報酬/処罰によるモチベーション(モチベーション2.0)ではなく,内的な要因(自律性,マスタリー,目的)でもって自らを鼓舞しモチベーションを持続させる

今回のアンケートの結果も,この3つの理論に適用させる形で紹介されました。

「潜在的なモチベーション」は存在するか?

アンケートではまず,対象となった約600名のテスターに「テストという仕事を遂行することに強いモチベーションを抱いているか」という質問をしています。これに対し,400名近いテスターが「同意する」⁠強く同意する」と回答しており,120名ほどが「どちらでもない」としています。なお,⁠あまり同意しない」⁠まったく同意しない」と回答したテスターも合わせて40名ほどいます。

図1 テストという仕事に対するモチベーション分布

図1 テストという仕事に対するモチベーション分布

では,⁠テストという仕事を遂行することに強いモチベーションを抱いている」と自分では思っているテスターは本当に意識高く業務を行うことができているのでしょうか。本アンケートでは,職務特性理論で用いられているMPS(Motivating Potential Score)というスコアを使い,定量的な相関関係を提示することにトライしています。

MPSは

  • スキルの多様性(Variety)
  • タスクの完結性(Identity)
  • タスクの重要性(Significance)
  • 自律性(Autonomy)
  • フィードバック(Feedback)

という5つの要因(変数)(V+I+S)⁠3×A×Fという方程式に当てはめることで,個人の内発的なモチベーションを生み出す"潜在的"な可能性をはじき出すスコアです。各変数は最小1ポイント,最大7ポイントが付与されるので,MPSは1から343までの値を取ります。

リード氏は「MPSで定量的にモチベーションを計測すると,たいていの人は60から200の範囲に収まる。200を超えるような(やる気がありすぎる)ケースはほとんどなく,逆に60を下回るようであれば(やる気がなさすぎて)業務の遂行は無理」と説明しています。

モチベーションに対する顕在意識と,モチベーションが生まれるかもしれない潜在的な可能性,その相関性はどうなっているのか,非常に興味深いところです。テストへの高いモチベーションを自覚しているテスターは,そのモチベーションを維持できる可能性が高いのでしょうか。また,テストへのやる気がないように見えて,実は潜在能力は高いかもしれないテスターは存在するのでしょうか。

こうした相関関係を調べるときは「ピアソンの相関係数」に照らし合わせると,その傾向がわかりやすくなります。リード氏は,各テスターのMPSを縦軸に,顕在意識のポイントを横軸に取った相関図を提示しています。

図2 MPSと意識の相関

図2 MPSと意識の相関

横軸は左から「まったく同意しない(1.0)」⁠同意しない(2.5)」⁠どちらでもない(4.0)」⁠同意する(5.5)」⁠強く同意する(7.0)」

相関図を作成するとおおよその傾向を示すグラフが浮かび上がってきます。グラフの傾きを示す係数(r)ごとに分類すると以下のようになります。

r=+0.70以上非常に強い相関関係
r=+0.40~+0.69強い相関関係
r=+0.30~+0.39一般的な相関関係
r=+0.20~+0.29弱い相関関係
r=0~+0.19ほとんど相関関係はない

ここで示された係数の値は約0.40,つまりテスターの顕在意識とモチベーションの潜在的可能性は「強い相関関係にある」と見ることができます。ふだんから意識が高いテスターは,潜在的なモチベーションも高い傾向にあるといえそうです。

著者プロフィール

五味明子(ごみあきこ)

IT系の出版社で編集者としてキャリアを積んだ後,2011年からフリーランスライターに。フィールドワークはオープンソースやクラウドコンピューティング,データアナリティクスなどエンタープライズITが中心。海外カンファレンス取材多め。Twitter(@g3akk)やFacebookで日々IT情報を発信中。

北海道札幌市出身/東京都立大学経済学部卒。

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